卵と接した精子は,かたい卵殻があるので卵内に入れません.そこで卵殻には精子の通り道が用意されています.これはふつう卵の前極に数個から10個程度あって,卵門とよばれています.頭部を卵内につきさした精子は,その核を卵細胞の中に放出し,卵の核と合体して受精が完了します.
受精卵はただちに発生を開始します.ムカシトンボでは最初は合体した核が卵の前極よりの中央付近で分裂をくり返します.卵黄の少ないヒトやウニでは核の分裂にあわせて卵全体にも割れ目が生じますが,卵黄の多いトンボの卵ではそういうことはありせん.この時期の分裂を卵割といいます.はじめのうち核は同調的に分裂をくり返し,同じくムカシトンボでは6回程度分裂したころに核は卵の周辺に移動をはじめます.さらに分裂し数を増やしながら周辺にたどり着いた核のまわりに細胞膜がつくられ,その結果卵の表面全体に細胞の層が完成します.こういう卵割の方式を表割といい,できあがった表面の細胞層を胚盤葉(はいばんよう)といいます.
胚盤葉は卵をルーペでみたくらいではみえないほどうすいものですが,数日後,後極の近くの表面に透き通った感じの白っぽい部分が現れてきます.これを腹板といいます.さかんに細胞分裂がおこわれていて,将来の幼虫の体になる部分(胚)がつくられているところです.胚盤葉のうち腹板をのぞく部分は漿膜(しょうまく)といって卵全体をつつむ膜になります.
腹板はやがて細長く広がっていき,ヤンマなどの卵ではそれが卵黄の中に陥入し前極の方へのびていきます.卵黄の中に陥入した部分の腹がわはうすい膜(羊膜)があって,卵黄から隔てられています.胚の陥入口近くに位置する部分はいくらか表面に広がっており,ここは将来の頭になる部分で,原頭葉といいます.つまり頭を下にしてさかさまを向いていることになります.この状態のときは,胚の腹部に相当する部分ばかりがつくられていき,背中がわに当たる部分はまだつくられません.
さらに発生が進み,将来目になる部分が認められるようになってくると,やがて,胚反転という劇的な胚の動きがみられるようになります.今まで下(後極)を向いていた胚の頭部が卵の内壁にそって上(前極)へすべるように移動し,同時に卵黄の中に陥没していた胚と羊膜のふくろがちょうどくつ下を裏返すようにして外に出てきます.そして,腹部が卵の表面がわに位置し,背中に卵黄をかかえたような状態になります.
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